海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!
大海原で愛を乞う



 その晩も、俺とエレンはこれまでとなんら変わらずに、寝支度を整えていた。
「アーサーさん、そっちよろしく」
「ふむ、こうだな。ええっと、それで? ローシャル伯父上が野生の猿と評したエレンの所作やら口調やらが、いつからだって話だったか?」
 床に落とした寝台の敷布の四隅を、エレンの指示でピンピンと伸ばして敷く。
「そうそ。最初はさ、女っぽくしてたんだ。父ちゃんはさ、半ば崇拝するみたいな感じで母ちゃんが大好きなんだ。父ちゃんの目は、いつだって母ちゃんを一番に追っかけてる。父ちゃんは優しくて、母ちゃんにするのと同じように私のこともなでてみたり、抱きしめたりしてくれてた。だけどなんか母ちゃんにする方が、熱がこもってる気がして、子供心におもしろくなかった。それで五つくらいの時、たまたま近所の悪戯坊主が悪さ仕掛けてきて、私はこてんぱんに撃退してやったんだ。最後に捨て台詞はいた時の、坊主の顔っつったら見ものだったぜ。だけどさ、実はそれ、うしろで父ちゃんも見てたんだよ。どうやら助けにこようとしてくれてたみたいでさ」
 実際に目にせずとも、光景が浮かぶようだった。
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