エリート御曹司は獣でした
八重子ちゃん……『了解』という気持ちを伝えたい時には、親指を上に向けるんだよ。

それも後日、教えてあげようと思いつつ、出ていく彼女を手を振って見送った。


ドアが閉まって久瀬さんとふたりきりになり、さて今後のことを相談しようと思ったが……。


同じタイミングで振り向いた私たちは、顔を見合わせた途端に照れくささが蘇ってしまい、お互いに背を向けた。

顔の火照りと手が汗ばむのを感じつつ、「あの、久瀬さん」と話しかける。


「なに……?」

「八重子ちゃんには、本当は恋人関係にないことを、後でちゃんと話しておきますので……」


それだけ言うのが精一杯で、言葉が続かない。

未遂で終われば惜しかったという気持ちになってしまい、余計にキスのことばかりが頭に浮かんで、もう今日は彼の顔を直視できそうにない。

久瀬さんも、気まずさを感じているようで、「ああ……うん」と、それだけしか応えてくれなかった。


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