彼のゴール、わたしの答え
彼の独白
十年前。
十年後も必ず隣にいると心に決めていたが、今俺の隣にいるのは彼女ではない。



三十五歳を過ぎてから、ことあるごとに結婚しないのかと言われるようになった。妹が二十九歳で結婚し、あとはお前だとでも言うように。
今の世の中、独身者は多いし、恋人と楽しくやっているから好きにさせてくれとのらりくらりかわしていたが、そのうち恋人の存在を疑われ始めた。連れてこないってことは嘘か、訳ありなんだろうと。
俺たちの関係性を考えると、まぁ訳ありではあるが、説明を渋っていたら、連れてこいと言うことになった。意外だったのが、彼女も俺の両親に会うのを厭わなかったこと。前向きに俺たちの関係を考えてくれてるのだとうれしかった。

でも、やっぱりそうことはうまく運ばず。
開口一番彼女の年齢を確認し、結婚は早い方がいいと告げ、挙げ句孫を抱くのを楽しみにしているとプレッシャーを与えた俺の母親。
それに対し、ニコニコ受け答えをしていたが、さすがに子どもに関しては表情を曇らせた。『お孫さんに関しては、ご期待に添えることができないと思います』
彼女の申し訳なさそうな表情は、今でも忘れられない。

挨拶後、母親から根掘り葉掘り聞かれた。産むことができないのだと伝えると『そう』とだけ言われた。
しかし、ある日を境に歯車が狂った。
他県で暮らす妹夫婦の住まい近くに出張へ行くことになった時、せっかくなのでと誘われた食事の場に、なぜか妹の親友だとか言う女性が同席していた。
家族の食事になぜ他人がと思ったが、雰囲気を悪くもしたくなく、普通に楽しく飲んだ。飲んで、俺も気持ちが少し緩んでしまったのかもしれない。酔った妹の親友をタクシーで家まで送った時、事件が起きた。

帰りながら俺の彼女の話になった。当時、俺たちは公私共にいいパートナーといえる関係で、彼女は俺の気持ちを完全に受け入れてくれていたと思う。ただ一点、手術の痕があるからと、交わる時でさえ素肌を見せてくれることはほとんどなかった。
何の気なしにそれを告げると『なんか、壁を作られてるみたいですね』と言われ、『寂しくないですか?』と問われた。まぁ、少し、寂しい気持ちはあり、あやふやに答えたと思う。『わたしなら、全部見せます。心も、身体も』そう言われ、妹とその親友の関係に影響しても困ると思い、それにも、あやふやな答えをした。
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