無愛想な同期の甘やかな恋情
たとえ不可能でも
いつもよりかなり早い時間帯の通勤路は、人通りも少ない。
犬の散歩をする人をあちこちで見かける。
普段の私の日常にはない、和やかな朝だ。


曇り空の隙間から顔を覗かせる太陽も、日中に比べると、その威力もまだまだ弱い。
ノースリーブのシャツから剥き出しの肩に纏う空気が、柔らかく感じる。


電車もほどよく空いていて、いつものような遅延もない。
私は、マンションを出てから三十分ちょっとで、オフィスの最寄駅に到着することができた。
だけどオフィスがある本社ビルには行かず、 まっすぐ別棟のラボに向かった。


ラボの受付には、二十四時間警備員が常駐している。
私は、ちょっと眠そうな顔の警備員に声をかけ、穂高君への取り次ぎをお願いした。


研究室に電話をしてくれた警備員が、わずかの間の後、「おはようございます、受付です」と名乗り用件を話し始める。
「承知いたしました」と電話を切るまでに、少し間があったから、穂高君が私の来訪に戸惑っているのが感じられた。


「事務所で待っていてください、とのことです」


警備員が、穂高君の指示を伝言してくれる。
私は彼にお礼を言って、事務所に向かった。
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