一目惚れの彼女は人の妻
破れかぶれ〜俊輔Side〜
 その翌日。

「斎藤さん。俺を今回の担当から外してくれませんか?」

 俺はあれから考えに考え、会社に行くとすぐに、斎藤先輩に頼んでみた。もちろん、宏美さんの事を諦めるために。しかし、

「それは無理だな」

 即答で断られてしまった。予想通りではあるが。

「田村さんと喧嘩でもしたのか?」

「え? な、何を言ってるんですか……」

「おまえと彼女がただならない仲なのは、みんな気付いてるよ」

「そ、そんな事はない、です」

 あ、そうか。斎藤さんやみんなは、宏美さんと篠崎課長が夫婦だって事、知らないもんな。

「可哀想に。泣きそうな顔してたぞ?」

「いつ、誰がですか?」

「田村さんに決まってるだろ。この間の打ち合わせの時だ」

「そんな……」

 バカな。泣きたいのは俺の方なのに。

「早く仲直りしてやれ。仕事にも支障が出る」

「あ、はい」

 面倒だから、俺は”はい”と言ってしまった。それにしても解らない。宏美さんの気持ちが。

 今夜も残業になった。俺だけではないが。しかし宏美さんの事が気になって気になって、ちっとも仕事に集中出来なかった。

 居ても立ってもいられず、俺はPCでメールを書き始めた。宏美さんの名刺を見ながら。宛先は、宏美さんの会社のメアドだ。

 会社の電話の他には、それしか彼女と連絡を取る方法がなかったからだ。メールの内容は、こんな感じだった。

”お疲れ様です。中山です。
 個人的にお話したいので、ご都合を教えていただけますか?”

 堅い文章だが、会社のメールではこれぐらいが限界だろうと思う。ちょっと迷ったが、思い切って俺は送信ボタンをクリックした。

 すると、なんと数分後に、宏美さんから返信が来た。

”お疲れさまです。田村です。
 私はいつでも大丈夫です。中山様が良ければ、今からでも。”

 そして、そのメールの後には、LINEのQRコードが貼り付けられていた。
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