偽物の恋をきみにあげる【完】

夜11時、海浜幕張駅前──。

いつもだったら南川月、つまり月奈とのメールが始まる時間、俺は駅前広場のベンチに座り、頭を悩ませていた。

まだ終電はある。

だから、家に帰るなら今なのだ。

そんなことはわかっている。

けれど。

「ねぇ~大河ぁ~」

俺にもたれ掛かるようにして隣に座っている月奈が、さっき彼女に無理やり飲まされたカルーアよりも甘ったるい声を出す。

「ん、なに?」

京葉線の時刻表を開いたケータイと睨めっこしていた俺は、返事をしながら彼女に視線を移した。

俺を見つめる、月奈の少し潤んだ上目遣い。

……可愛い。

「んふふふふ。なんでもな~い」

まるい顔が、幸せそうに綻ぶ。

……めちゃくちゃ可愛い。

「なんだよ酔っ払い」

まるい顔の真ん中の、小さな鼻先を指で弾いた。

「わー、いたーい……えへへ」

ダメだコイツ、完全に泥酔してる。

仕方ない、とりあえず家まで送り届けるか。

「月奈、そろそろ駅行こっか」

意を決して俺が言えば、月奈は首を横に振った。

「んー、もうちょっと大河といる~」

……なんだこの可愛い生き物は。
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