響子さんの言葉はもっともだ。
確かに、歳の離れた友人がいてもおかしくはないとは思う。
SNS等で知り合った歳上の友人と創作活動やゲームをするなんて奴は、少数だけどクラスにもいる。
ただ、そこに自分が関わることになるとは思っていなかっただけだ。それも、響子さんのような、趣味の接点もない、かなり歳の離れた女性が相手だなんて。
ついさっきまで、眺めるだけで名前も知らなかった彼女は、たった今、大河を指して“友達みたいなもん”と言った。
彼女は自由だ。
まだ数十分しか話していないけれど、それは確信に近いものがある。
きっと、自分の知る大人の中では、かなり自由なタイプの人間だ。
この1週間、彼女を待ちながら、もしこれがキッカケで仲良くなれたら……あわよくば、付き合えたりしたら……なんてことを、考えなかったわけじゃない。
むしろ、そればっかり考えていたけれども。
……友達って。
そうやって作るものか?
いや、それを言ったら恋人だってそうなんだけど。
自問して、それでもまあ、きっとこれはチャンスなんだろうと思う。
チャンスだよ!と、妙なポーズを決めた海都が脳裏をよぎって、思わず笑いが混み上げる。
ふいに笑いだした俺を響子さんは不思議そうな顔をして見上げた。
「べつに面白いこと言ってないでしょ。」
「いえ。あの、俺……」
落ち着こうと、大きく息を吸って吐く。
「響子さんの友達ってことで、いいのかな。」
「駄目な理由ないでしょ。」
響子さんは笑って「可愛い友達ができちゃった」と呟く。
「可愛いってなんすか。可愛いって。」
「そういうとこ。可愛い。」
「響子さん!」
流石にからかわれたことに気付いて、声を上げると、響子さんは笑いながら「ごめーん」と謝った。
「あ、じゃあ、連絡先教えてください。メッセージ、します。」
立ち上がってポケットからスマートフォンを取り出し、連絡先交換用のコードを表示した。
テーブルに身を乗り出して、その画面を差し出す。
「それは、やめとこう。」
「え。やめ……? あ……彼氏とか……いるよね……」
そういえば、訊かれるままに自分の話はしたが、響子さんのことは名前以外ほとんど訊いていなかった。もしかしたら、彼女は既婚者で、今日はたまたま外出の日なのかもしれない。
急に不安になって、響子さんを見下ろすと、彼女は真剣な顔をして首を振った。
「全然、全く、いないけど。」
「なんだ……」
その力強い否定に、膝から力が抜けて椅子に座り込むと、響子さんはふふふと、笑みをこぼした。
大河はそのままテーブルに突っ伏して「じゃあ、なんで?」と、その疑問を投げる。
「どうせまた、電車で会うでしょ。」
「会うだろうけど。」
「その方が、偶然また会えた時に嬉しいじゃない?」
「響子さん、偶然てね、“偶々、自然に起こる”から偶然ていうんですよ。……俺、1週間も待ったのに。」
その言葉に響子さんはけらけらと笑うと、テーブルに突っ伏したままの俺の頭を撫でた。
俺、今、完全に子供扱いされてる。
でも、それはなんだか特別な事のように思えて、少し嬉しくもある。
「じゃあ、今日、会えて嬉しかったでしょ。」
「うん。」
「私も嬉しい。失くしたと思ってたお気に入りのシュシュが返っててきて、おまけに素敵な人を連れてきてくれたんだもん。」
素敵な人……。
「それ、本気で言ってます?」
「ん? “可愛い子”の方が良かった?」
顔を上げると、壁に掛かった時計が見えた。
21:40……21:41……
デジタルの数字が点滅して切り替わる。
「やっべ。帰らなきゃ。」
慌てて立ち上がると、響子さんは「片付けはいいよ、そのままで。私、やるから。」そう言って手を振った。
「ごめん!ありがとう!」手を合わせて、店を飛び出す。
改札を駆け抜けながら、これ、夢とかじゃないよな……?と、自問する。
撫でられた髪の中に細い指先の感覚が残って、思わず髪を掴む。
たった1時間。想定外のその時間は、想像した以上に彼女の事を知ることが出来て。
まるで、以前から知り合いだったみたいに、自然で。
思い描いていたよりもずっと、親しくなれた気がした。

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