恋は、秘密主義につき。
3-2
兄さまが足を止めたのは、道沿いのロッジ風のお店。カフェ・ミモザと手書きされた黒板ボードが、入り口脇のイーゼルに立てかけられていた。

「おいで」

兄さまにエスコートされて店内へ。
中も山小屋っぽい板張りの内装で、ランタン風の照明が柔らかく灯り。スツールが5つほどのカウンター席と、4人掛けのテーブル席がやっぱり5つ。

「お好きな席にどうぞ」

常連さんなのか、お客さんの一人と歓談していた白いシャツ姿のマスターがカウンターの向こうから、にこやかに声をかけてくれた。
入り口近くのテーブル席に年配のご婦人が3人、ひっそり端の席に男の人が1人。
空いている席のどれかに座るのだろうと思っていたら、愁兄さまは迷わず奥へと。そして。

「待たせたね、佐瀬(させ)」

壁を背に、どことなく気怠い空気を纏って座っていたその人に向かい、淡く笑んで見せたのでした。



< 60 / 367 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop