legal office(法律事務所)に恋の罠

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「お前、何様なんだよ!あいつに会わせろって言ってんだろ!」

事務所の一室に男の罵声が響き渡る。

「感情的になるのは法廷に持ち込んだときにあなたの不利になりますよ。初めにお伝えしたように、会話はすべて録音させていただいておりますが」

眉一つ動かさずに、フレームレスの眼鏡を持ち上げる女性。

彼女の名は夢谷和奏(ゆめたにわかな)27才。弁護士だ。

ちなみに現在、罵声をあげている男は、交際している女性から散々金を巻き上げ、逆らおうものなら手を上げる、という最低な人物。

和奏が請け負った法律相談のクライエントの交際相手だ。

「何勝手に録音してんだよ。俺は許可した覚えはねえぞ」

テーブルの上に置かれたレコーダーに手をかけようと男が立ち上がった際、それを遮ったのは、山崎湊介(やまさきそうすけ)25才だ。

湊介は護身術を身につけている。海外でSPとしての訓練も受けており、山崎legal officeが雇用しているボディガードでもあった。

湊介は和奏の一つ下のいとこ。

和奏が勤める山崎legal officeの社長兼弁護士である叔父、山崎庄太郎56才の息子でもある。

「手を上げるなんて最低・・・」

呆れたように呟いた和奏の言葉は男性には届いていないようだが、舌打ちする音は聞こえたようだ。

「彼女に助けてもらって何が悪い。困ったときはお互い様だから一緒にいるんだろう?あんたも男に貢いだりしてんじゃねえのか?」

男は開き直ったのか、ソファにドサッと体を預けると横柄に笑った。

「あいつが好きで俺に貢いだんだ。俺には何の落ち度もねえ」

ニヤニヤ笑う男は悪怯れる様子もなかった。
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