私たちの六年目
崎田君の言葉にしばらく思考が止まっていたけど、すぐにハッとして「もちろん」と言った。


「何か欲しい物はある?

あんまり高いものだと難しいけど」


「物は別にいらないかなあ」


「そっか。うーん、どうしよう。食事でも奢ろうか?」


「はい。僕、それがいいです」


「じゃあ、どこに行くか考えておいてね」


崎田君が選ぶ店なら、きっとどこでも美味しいしね。


「店なら、もう決めてあるんです」


「はい?」


決めてあるって、どういうこと?


何がなんだかさっぱりわからなくて首を傾げていたら、崎田君が可愛い顔でクスクスと笑った。


「ごめんなさい。回りくどい言い方をしちゃって。

実は僕、菜穂さんの退院祝いをしてあげたいと思ってたんです」


「え……? それなら今度の日曜に職場のみんなと飲み会があるでしょう?」


「いや、それとは別にですよ。

これ見てください」


そう言って崎田君は、私に一枚のチケットを見せた。


「ん……? お食事券?

しかも、○□ホテルのディナー⁉

これ、どうしたの?」


○□ホテルって言ったら、超ハイクラスホテルじゃないの。


「先月親戚の結婚式があって、両親が出席したんです。

その時の引き出物がカタログギフトだったんですけど、俺の親……商品を選ぶのが面倒くさいからって僕にくれて。

それで僕はお食事券にしたんです」
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