私たちの六年目
あの日の菜穂。


すごく綺麗だった。


あんな菜穂を、俺は初めて見た気がする。


だけど、どうしてあの日、菜穂はあんな場所にいたのだろう。


しかも、崎田君と一緒に。


ああいうレストランは、男性が女性にプロボーズする時に使うような店じゃないのか?


決して、職場の先輩後輩同士で気軽に行けるような店じゃない。


ーということは、二人はもしかして付き合い始めた?


案外そうかもしれない。


だって崎田君は、菜穂にベタ惚れだし。


菜穂も、新しい恋をして当然だから。




あの日……。


俺は、菜穂にとんでもないことを口走った気がするけど。


実はあんまりよく覚えていない。


ただ、どうしても菜穂の手を離したくなくて。


このまま菜穂とずっと一緒にいたいと思ってしまった。


以前のように何時間も話をして。


沢山笑いたくなった。


菜穂……。


お前の顔を見ると、心の底から安心する。


大丈夫だよって笑顔で言われたら。


本当に大丈夫な気がするんだ。


だけど、もう……。


そんなこと、菜穂に望んじゃダメなんだ。


俺はこれから、梨華と結婚するんだから……。
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