バンパイア・ トラブル
桜の咲く季節だ。

今日は天気も良く気温も暑からず寒からずで気持ちがいい。
桜の通りは人で混雑している。

今日は桜デートの後、いつものように女の家へ行くつもりだったのだが………。



「いい加減にしてよね、最低!」



桜の美しい青空の下で乾いた音が響き渡る。

左頬に強い痛みを感じた。
おれはビンタされたようだ。

おれを殴った女は、おれを睨むと踵を返しヒール音を響かせ去っていく。

桜を見物に来ていた人間が、おれたちを眺め唖然としていた。



「痛ってぇ……」



おれは痛む左頬を押さえた。
女を追いかけはしなかった。
すがって引き止めたい相手じゃなかったし。

殴られた原因はおれの浮気だ。


おれは浮気をしたが、浮気だとは思っていない。


好きな女と寝るのと体だけの女と寝るのとでは、違う。


だが女は全て混同して考えたがり、そこが男と女の違いだと思っている。

おれを殴った女が前者か後者かと問われると前者だったと思うのだが、今はそうだったかも分からなくなった。


まあ色々と理由をつけているが、おれが本気になれないだけなのかもな。


考えている間に左頬がジンジンと痛み、熱をもってきたようだ。



「こりゃあ、跡が残るかもな」



おれは頬を押さえると仕方なく、自宅方向へ歩き始めた。


< 1 / 15 >

この作品をシェア

pagetop