Fall in Love. ~一途な騎士団エリートによる鈍感公爵令嬢の溺愛~

フォルティスの真意

城壁の中、周囲の純白色の建物と対称的な漆黒のどっしりとした建物。騎士団の本部は地下5階までの牢獄や、別棟の独身寮などを構えている。

屋外訓練場はとても広く、毎日様々なトレーニングが行われている。入り口には槍を持った強堅な男が2人並んでいて、入るのもためらわれる。

そんな恐ろしい建物の最上階の1つ下の執務室では、フォルティスが溜まりに溜まった書類にバンバンと音を立てながら判子を押していた。

「失礼します。急ぎの書類をお持ちしました、、、?」

入ってきた部下の様子がおかしいことに気づき、顔をあげる。俺の顔を見て、驚いているのはカイだ。

ちょうど今、頭の中の9割5分を占めているリリの弟だ。

「入れ。なんだ?どうかしたか?人の顔をじっくり見て。」

俺から声をかけてようやく動き始めたカイは書類を渡すのもそこそこに聞いてきた。

「い、いえ。今日は何かいいことがあったんですか?」

ちょうど良かった。報告したいことがたくさんあったんだ。

「今日?いや、昨日からだな。後で聞いてくれよ、カイ。」

「また俺の姉の話ですか?最近は昼の休憩中ずっと聞かされてて、、、」

神は俺の味方だと図々しくも思うほど、嬉しかった。

カイから昼休みのたびに、昼食を食べながらリリの話を聞いた。そのために、何回かはおごらされたりした。

「断るのか?」

こいつは断らない。

俺に話すのはめんどくさくても、俺の様子が面白くてしょうがないようだから。

「断りませんけど!見ててもおもしろいので。」

ほらな、やっぱり。

「じゃ、後でな。書類は確かに預かったよ。」

興奮のあまり、判子を押す勢いが弱まらない。





「で、昨日のパーティーで何があったんですか?」

昼食を食堂で摂るために階段を降りているときに、待ちきれずに聞いてくる。


多少ニヤニヤされているのは我慢するとして、俺は喜びを抑えて報告した。

「リリが俺の贈ったドレスを着ていてな、、、」

そう。

まさか贈ったその日のパーティーで着ているのを見られるとは思わなかったのだ。

久しぶりに間近で会って、変わらぬ美しさと鈴のような声、目が合うと、呼吸が止められてしまいそうなぱっちりとした瞳をじっくりと見れた俺は、昨日から顔が緩むのを抑えられない。

そのせいで会う部下たちに変な目をされるのだ。

「良かったですね。本当に、驚きですよ。

まさか、憧れの『烈火の騎士』とも呼ばれるフォルティス様が俺の姉にベタぼれだなんて。

最初に屋敷で会ったときはびっくりしましたよ。」

騎士として、感情を出しすぎるのは感心しないが、こればかりはしょうがないと自分自身、諦めている。

「そうだろうな。」

俺は、彼女と結婚するために、彼女の父である公爵家当主に挨拶に行き、何度も頼み込んで、毎週経済状況や、領内の税収、近隣の貴族との仲など、詳しく教えてもらっている。

全ては彼女と結婚し、共に公爵家を支えるためだ。

身分もなにもない頃にどうしてリリと会えたかは、いつか本人に話すとして、ここまでリリと結婚することにこだわっているかだ。

それは簡単なこと。

他の男がリリと結婚するのは許せないからだ。

リリは辛くて苦しい訓練の中でも希望であり、マナーや学問を習得する目標にもなった。

彼女の隣にたどり着くためならば、何でもすると、養子として迎えて俺にチャンスをくれた伯爵に誓った。

伯爵家の養子である自分の元に、彼女が降嫁してくれると考えるのは難しいが、俺自身の手腕を認められたら、婿入りすることで、リリと結婚できる可能性が上がる。

数年前から学び、国中で流行った伝染病を共に乗り越えた俺は、去年やっと認められた。

屋敷に通いつめるなか、母親の死にうちひしがれる彼女に寄り添ってあげられず、1人で泣いていたのを見て、やっぱり自分が支えたいと必死で領地を動き周り、感染を食い止めた。

結局、俺は彼女に支えられたんだ。

反対していた親戚たちからも受け入れてもらえて、正式に婚約者候補になれた。

そこで、リリの社交デビューの年から近づけるようになったんだ。

しかも、当主のお墨付きだから使用人からのサポートも手厚い。

ただし、親の決めた婚約者として現れることは、当主も俺も望んでいない。

あくまでも、俺のプロポーズを受けてもらえたら結婚ができるのだ。

俺は、リリの嫌がることはしない、受け入れてもらえなかったら一生公爵家の敷地に入らないこと、を条件にアプローチすることを認めてもらえた。
< 6 / 51 >

この作品をシェア

pagetop