異世界の巫女姫は、提督さんの『偽』婚約者!?
海神の巫女姫
海神島(わだつみのしま)ーー

日本の南の海に浮かぶ総人口200人の小さな島には宗家と呼ばれる桜庭家が島の中枢を握っていた。
桜庭家は海神の社の宮司を務め、その家系の女子の中にはまれに不思議な力を秘めた者が産まれてくる。
それは「海神の巫女姫」と呼ばれ、神格化され誰とも添い遂げることなく、島の為に祈り島を守り、島から一歩も出ることなくその一生を終えるのだ。
その風習はこの現代になっても続き、当代の巫女姫、私、桜庭セリもそれに習うものだと思って生きてきた。

「セリ。消しゴム忘れた、貸して」

「ん。はい」

島唯一の高校に通っているのは私と、同級生男子の村上奏太、越智勇樹、女子の桧垣真美。
あとは後輩と先輩が何人かいるが、全体でも10人しかいないという超過疎地である。
私は奏太に消しゴムを貸すと、窓の外を眺めた。
相変わらずそこには海しかない。
いつもいつも同じ風景に同じ顔。
それが、いいのか悪いのかもわからないし、例え悪かったとしても私は何も選び取りはしないし選ばせてはもらえない。
そう、例えばこれは……本当に例えばなんだけど、私が奏太に友達以上の感情を抱いたとしても、その関係は何も変わることはないのだ。
この島にとって私という人間は神に等しく、誰も逆らわないし、何をしても大体は許されるが、それでも許されないこともある。
恋愛とか結婚だ。
巫女姫は一生涯独身でなければならない。
独身であることと巫女姫の力に関係があるとは全く思えないが、何代か前の巫女姫が、恋仲になった男と駆け落ちし島を去るという事件が起きてから、島の人々の監視の目がキツくなった、と聞いている。
巫女姫がいなくなったその年に、大時化(おおしけ)が続き、ひっきりなしに災害に見舞われたせいだろう。
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