異世界の巫女姫は、提督さんの『偽』婚約者!?
正門を出て、ひたすら長い下り坂を惰性で歩いて行くと、坂を降りきったところで勇樹がその輪から外れる。
島のメインストリートとも言える商店街の中で、今度は真美がいなくなった。
商店街を抜けて、海沿いの道を奏太と二人で歩くのは、何年も繰り返されてきた行事みたいなものだ。
奏太は必ず私の家まで来て、玄関へ入るのを見届けてから帰る。
中学の頃までは、それは彼の好意だと単純に思っていたが、高校になり色々わかってくると、それは好意ではなかったと気づいた。
奏太は私を守り、見張る、そういう役目だったのだ。
先代にもそういう男性が側にいたのを、私も何となく覚えている。
巫女姫が誰かに恋をしないように、そして逃げないように一生側で見張り、目を光らせる。
そう彼も、私と同じ、ここから出られない人間なのだ。

「明日は祭りだな、準備はすすんでいるか?」

「うん。毎日祠で祈ってる。今年も無事に済むと思う」

「そっか……」

奏太はどっちかというと言葉が少なく、一緒にいて会話が弾む方でもない。
だが、慣れというのかなんなのか、その声を聞くとなんだか落ち着いてくるのだ。
年に一度の「海神祭」を明日に控えた今日、そうやって私を気遣ってくれるのはお役目であろうとなかろうと関係なく本当にありがたい。

「じゃ……明日な。迎えに来るからちゃんと待ってろよ! 」

「はいはい。いつもすみませんねぇー」

「茶化すなよ!じゃあな!」

「うん。ばいばい」

鞄を肩にかけ直し、桜庭家の玄関から去っていく奏太の背に私は問いかける。
あんたはそれでいいの?と。
一生を私に奪われて嫌じゃないの?と。
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