クールな御曹司と愛され新妻契約
第一章 真摯な御曹司の不埒な囁き
五月初旬。すでに初夏の暑さを帯び始めた日差しを片手で遮りながら、東京都港区のシティホテルが立ち並ぶエリアに程近い、駅から徒歩五分の好立地タワーマンションへ足早に向かう。

現代的で洗練されたガラスカーテンウォールの外観、屋根の広い車寄せまで続くお洒落な並木道。

二層吹き抜けどころか三層吹き抜けの高級感漂うメインエントランスが広がる、地上四十階建の超高層分譲マンションの、最上階。
そこが私の勤務地だ。

フロントコンシェルジュの方に挨拶をしてから、豪華なソファセットがいくつも設置されたロビーを抜け、セキュリティー万全なエレベーターホールへ入る。

社内金庫にて厳重に保管している『担当者専用』のカードキーを翳してエレベーターに乗り込むと、四十階のボタンを押した。

各所にエレベーターが複数基あることに加え、プライベートを守るための制御システムが作動しているため、住民の方と乗り合わせたことは一度もない。

私の住むマンションでは各階停車や乗り合わせた方との雑談なんて日常茶飯事なので、この直通システムにすら私はただならぬ緊張を感じ、改めて背筋を伸ばした。
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