その瞳に私を写して
「麻奈さん!」

間一髪!

勇平が腕を引っ張ってくれたおかげで、麻奈は自転車にぶつからずにすんだ。

だがアクシデントは、それだけじゃなかった。

麻奈は今、勇平の胸の中にいるのだ。


ドクン ドクンと、麻奈の心臓の音が、自分に聞こえる。

「危ないなぁ、あの自転車。大丈夫ですか?麻奈さん。」

そう言った勇平の顔は、男の人の顔をしていた。


ドクン!

また麻奈の心臓が鳴った。

「危ないのは俺じゃなくて、麻奈さんの方でしたね。」


今度は胸が、キュンと締め付けられた。

「風が冷たくなってきたなぁ。そろそろ帰りましょうか。麻奈さん。」


そう言って勇平は、麻奈に手を差し出した。

麻奈は、その手を握った。

そして思った。


私は、恋に落ちたのだ、と。
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