その瞳に私を写して
「いい風。」

秋の匂いが、風に乗ってやってくる。


そう言えば、日本にいた時も正也と、公園によく行っていた。

写真を撮る為に。

目を閉じれば、その場面が浮かんできそうだ。


その時、シャッターを切る音がした。

振り返ると、勇平がカメラを構えていた。


「何勝手に撮ってるの。」

「すみません、麻奈さん あまりにもいい顔してたから。」

いい顔。

正也を思い出している顔は、そんなにいい顔なんだろうか。


「はい、こっち向いて~。」

「いいわよ、私は。それよりも早く会社に出せるような、写真撮りなよ。」

「ちゃんと撮ってますよ。」

ほんとうなんだか、部下に説教しているみたいだ。


「あれ、あっちに人だかりができてるなぁ。」

そう言って勇平は、人だかりの方へ行こうとした。

「そっちは、危ないよ。」


行こうとした勇平を、止めようとした時だった。

右から自転車が来てるのに、麻奈は気がつかなかった。
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