私は視えない。僕は話せない。
『今日の調子は?』

 と、彼は私の手のひらに指で書いた。
 一文字書き終える毎に、文字を綴らず私の手のひらを支えている左の指で、私の親指をきゅっと丁寧に押さえて合図を出しながら。

 私は目が見えないから、すんなりと分かるようになるまでは時間がかかった。
 初めの方、彼は一文字一文字間をおかずに書くものだから、なかなか追うことが出来なかったのだけれど、今の方法に落ち着いてからは、それがスムーズに出来るようになった。

 それを提案したのは私。
 我儘を言って、私の分かりやすいように変えてもらったのだ。
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