異世界から来た愛しい騎士様へ
第1話「特別な雨の日」





   第1話「特別な雨の日」




 その日、太陽の国が泣いていた。

 晴天が多い、太陽の国シトロン。雨が降る日は、月に1.2回だった。その雨を人々はとても大切にしており、神様からの恵みの涙として雨の日を喜んでいた。
 
 人々が喜んでいる最中、シトロンの姫はある事件に巻き込まれる所だった。




 「エルハム姫。そろそろ城に帰りましょう。」
 

 小雨が降る中、エルハムは山の中を歩いていた。比較的歩きやすい薄手のドレスを着ていたけれど、それでも裾は泥だらけになり、服は水分を含んで重くなっていた。
 ベージュのレースをあしらったドレスは、ふんわりとしておらず豪華でもないため、エルハムはよく好んで着ていた。


 「あと少しでジャムに使うベリーが丁度いい量になるの。だから、セリム……もう少しだけ時間を頂戴。」
 

 エルハムが、雨の森の中に居るとは思えないほどの晴れやかな笑顔でセリムにお願いをする。すると、笑顔を見たセリムは少し頬を染めながら「あと少しだけですよ。」と、彼女から視線を逸らしながら言った。


 「ありがとう、セリム。」


 エルハムは持っていた篭に真っ赤に育ったベリーを次々に入れていく。
 
 綺麗な金髪の髪。そして大きな瞳は宝石のように碧くキラキラ光っている。肌も透き通るほど白く、体も華奢であり、誰が見ても立派なお姫様だった。
 けれど、エルハムは少しやんちゃな部分があり、城を抜け出して町を一人で歩いたり、山道を散歩するのが好きな少女だった。エルハムはまだ16歳だ。外でいろいろな刺激を受けるのも大切だと、王もそれを許していた。
 それぐらいにシトロンの国は安全だった。


 それを見守っているのは、騎士団長であるセリムだ。エルハムと同じ金髪だが、エルハムのウェーブのあるロングの髪とは違い、彼は短めのサラサラのストレートだった。オレンジ色の瞳、そして身長も高く体も鍛えられているため、とても大きく見えた。けれど防具を取って普段着を身に付けているとと、ほっそり見えるのが不思議な青年だった。年はエルハムより5歳年上だ。



< 2 / 232 >

この作品をシェア

pagetop