異世界から来た愛しい騎士様へ
この日も、セリムがエルハムの護衛をしながら、姫は森までベリー摘みをしていたのだ。
その途中に突然青空がどんよりとし始めて、雨に降られてしまったのだ。
もちろん傘など持っていなかったので、2人共すぐに濡れてしまった。けれど、エルハムは全く気にする事もなく「小雨だから気持ちいいわね。」と笑っていた。
「うん。そろそろベリーも沢山集まったわ。セリム、帰りましょうか?」
「………姫様。少しお待ちください。軍隊の足音が聞こえます。」
「えっ………。」
セリムの緊迫した口調と、鋭い視線。
エルハムも何かがあるのだと察知した。けれど、エルハムにはまだ何も聞こえない。セリムは訓練された騎士団員であり、全体の隊長である。きっと遠くの音を聞き取り、危険を感じ取ったのだろう。セリムはエルハムを守るように前に出て、エルハムに体を低くして草影に隠れるよう促した。
エルハムは篭を抱えたまま、草影に隠れて辺りを見渡した。
しばらくすると、エルハムにも数人の足音が聞こえてきた。もし他の国の軍であれば何をしにここに居るのか。それをしっかりと見なければいけない。シトロンの姫として場合によってはその場に出て行き兵を咎めなければいけないのだ。
けれど、自分の味方は騎士団隊長のセリムだけだ。自分が出ていった事で、セリムに迷惑をかけてしまうかもしれない。
まだ見ぬ足音の相手を考え、エルハムはいろんな事を思考していた。そして、ついに足音が大きくなり間近に人影が見えた。
「セリム隊長!」
そこに現れたのは、自国シトロンの騎士団員達だった。見たことのある防具と顔達に、エルハムはホッと息をついた。
セリムも剣に手を添えて構えていた姿を解いて、彼らに話を掛けた。