新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
「皐月くん、あの、見えるところは」

「わかってる。ちゃんといつも、見えないところにしてるだろ?」



私の首もとで笑い混じりに答えた彼のセリフに、思わずまた顔を熱くさせる。

そう。今は服に隠されているけれども、私の身体のあちこちには、たっぷりと彼に愛された印が残されているのだ。

背中、二の腕の内側、おなか、内もも──それは全部、この場所を彼の唇がたどってじっくり見られたという証でもあって。思い出すだけで、体温が上がってしまう。



「ん、あ、皐月くん……」

「ほら、また煽る。礼だって、これだけじゃ足りないんだろ?」



自然と声を漏らしながら、皐月くんのTシャツの裾に手を入れて硬い腰に無意識に触れていた。

そんな私の行動にうれしそうな顔を見せ、皐月くんは私の左頬をするりと撫でる。

本当に、先ほどの彼の発言通りな自分になってしまっているようだ。小さく「うう」と唸ってから、どうせ意味はないとわかっているささやかな抗議をする。



「……土曜日も、いっぱいした……」

「今日は火曜日。もう3日も経ってる」



ほら、やっぱり無駄な抵抗だった。

今度こそ大人しく口を噤んだ私を見下ろす皐月くんは、もう完全にスイッチが入ってしまっているらしい。

メガネのレンズ越しに見える瞳は情炎がともり、まるで獲物を前にした肉食獣そのものだ。



「仕掛けたのは、礼の方だろ? たっぷりまた、愛してやる」



身体だけじゃなく、心も震わせる彼の言葉に欲念を煽られて、私は抗うことなく身を任せることにする。

ただ、まずは甘いキスが欲しくて、目の前にある首もとに手を伸ばし引き寄せた。



「……うん。私もっと、皐月くんに愛されたい」



恥ずかしくなる前に、自分から彼の薄い唇に自分のそれを押しつける。

そっと顔を離すと、皐月くんはなぜか思いきり眉間にシワを寄せ、とてつもなく険しい表情をしていた。



「えっ皐月くん、顔すごいよ?!」

「……奥さんがかわいすぎて、感動してる」

「それって感動の表情かな?!」



そんなやり取りをしたあと、どちらともなくプッと噴き出す。

顔を見合わせた私たちは、想いが通じ合ってからもう何度目になるかもわからない、甘く幸せな口づけを交わした。


彼と本当の夫婦になれたあの日の翌日から、私はまた日記をつけている。

だけどもう、これまでのように鍵をかけて、誰にも気づかれないようひっそりと隠しておく必要なんてない。

今、私の胸には──彼に知って欲しい、伝えたい気持ちばかりが、あふれているから。










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