【社内公認】疑似夫婦-私たち(今のところはまだ)やましくありません!-
1.ベッドの王子様
「えっ……私が企画部にですか?」

 梅雨が過ぎ、配置転換の時期などとっくに過ぎていた七月のこと。私、吉澤(よしざわ)奈都(なつ)は五年お世話になった営業部から、未経験の商品企画部への異動を言い渡されていた。

 まだ内示の段階なので、話を聞かされたのは人の耳のない応接室。私の向かい側のソファでは大河内部長が長い指を組み、前傾姿勢で私と目を合わせて語りかけてくる。

「うちの会社でまた新しい新製品プロジェクトが動いているのは知っているだろう?」

「はい……今は〝LUXA(ラグザ)〟ですよね」

 私が大学卒業後に新卒で入社した〝ロクハラ寝具〟は老舗の寝具メーカー。寝具や寝装具、タオルにインテリア用品までを製造・販売・輸出入している。目立ちはしないものの、各家庭に一つはロクハラ寝具の商品があるのではないかというほど、広く世の中に商品が浸透している会社だといえる。

 そんな中でも新製品の開発には余念がない。話に出た〝LUXA〟はロクハラ寝具が 今一番力を入れている期待の新製品。睡眠時だけでなく、就寝前のベッドの上でのリラックスタイムにも着目した製品だと噂に聞いているが、その詳細は社内でもまだ一部の人しか知らないという。

 部長は姿勢を崩さず私に言った。

「吉澤は商品企画部に異動。そして、そのまましばらく〝LUXA〟のチーム専任で仕事をしてほしいんだ」

「……わ、私がですか?」

 話を聞いてもよくわからなかった。新製品プロジェクトに携わると言えばうちの社内では花形業務で、関わりたいと思っている社員も少なくないだろう。それを、どうして営業経験しかない私に白羽の矢が立ったのか……? 喜ぶべき場面だと思うのに、〝なんで?〟って気持ちが強すぎて素直に喜べない。何か裏がありそうな気がしてしまう。
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