偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
いきなり結婚記念日
【いきなり結婚記念日】

 ――がちゃん。

 ソーサーに戻そうとしていたコーヒーカップをテーブルの上に落としてしまった。

 カップが派手に音をたてたので、わたしはやっと現実世界に引き戻された。

「大丈夫ですか? やけどはっ?」

「あ、平気ですから……」

 少し手にかかってしまったが、カップの中のコーヒーはそこまで熱くなかったため、大事には至っていない。

「でも、あなたの手が」

 川久保さんは慌てた様子で立ち上がり、わたしの方へ回り込み隣に座った。スーツから綺麗にアイロンのかかったハンカチを取り出すと、わたしの手をとりコーヒーを拭ってくれた。

「すみません、お手数をおかけして。もう大丈夫ですから」

 コーヒーがかかったところよりも、握られた手が熱いのは気のせいだろうか。

 失礼にならないように、自分の手を引いて彼の手から逃れようとした。

「……っ!」

 けれどそれを阻むように川久保さんの手にぎゅっと力が入る。心臓が跳ね上がり、はっとして彼の顔を見た。

「さっきの僕の言葉。冗談でも、なんでもありませんから」

 痛いくらいに真剣な目が、わたしの瞳を覗き込む。

 耐えきれなくなって思わず視線を逸らせた。
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