クールな弁護士の一途な熱情



入江果穂、30歳。

都内の専門学校を卒業後、大手と呼ばれるこの化粧品メーカーに就職してもう10年になる。

その中の【アンセム】というデパコスブランドの商品部企画課で働く私の仕事は、主に商品の販売企画を立てること。



シーズンやトレンドに合わせて、どのようなコンセプトで商品を打ち出すか。そのためにどのような新作を生み出すか。

それらを考え決め、開発課とともに商品を作り出す。



元々美容系の仕事に就きたくて、その中で出会った化粧品メーカーの仕事。

難しいことやつらいことも山ほどあるけれど、それでもなんとか必死にやるうちに気づけば後輩も増え、立場もチーフとなっていた。



責任や仕事量も増え、仕事で手いっぱいな毎日。

だけど、自分が企画した商品が売れると達成感も得られるし、お客様からの反応がいいと嬉しい。

やりがいがある仕事は、楽しい。



「あ、入江チーフ。今度の秋物新作の色見本あがってきましたよ」

「本当?見たい見たい」



ガラス張りのミーティングスペースから顔をのぞかせた後輩の女性社員に声をかけられ、私もその部屋へと入る。

見ると、横長いテーブルの上には20色以上の口紅がずらりと並べられていた。



「さすが、これだけ色展開があると圧巻だね」

「今回のこの秋カラー展開、入江チーフが企画したんですよね。さすが」



彼女の言葉に「いやいや、そんな」と照れながら、口紅を一本手に取り、手の甲に塗る。

白い肌に発色のいい深みのあるワインレッドが映えてとても綺麗だ。



「うん、開発部に要望した通りの発色だ」



二ヶ月後の9月に発売を控えた今秋の目玉企画は、『新作秋色20色展開』。

パープル系からコーラル系まで、幅広いカラー展開。それとともに定番の赤色もほのかにグリッターを足したり、マット感のあるものにしたりとカラー感を一新した。



夏や冬と比べ販売期間の短い秋物でこれだけの色を出すのは勇気がいったけれど、数あるコスメブランドの中でもなにか目立つ企画がやりたかったのだ。


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