極上御曹司のヘタレな盲愛
第2章 変化

婚姻届

駅から荷物を抱えてゆっくり家まで歩き門をくぐろうとした所で…。
私は回れ右をして全速力で走り出した。

家の駐車場に大河の車が停まっていて、玄関の脇で仁王立ちをしている大河と目があってしまったからだ。

「どアホ!なんで逃げる!」

必死で逃げたのに、荷物を持って走る私がスポーツ万能の大河を振り切れる筈もなく、あっさりと捕まってしまった。

肩で息をする私からヒョイっと荷物を奪うと、大河は私の手首を掴んでズルズルと引きずるようにして家の中に入った。

「捕獲完了」
大河にリビングまで引きずられていくと

「おー桃、お帰り」
「桃ちゃん、お帰りなさい」
と両親がのんびり迎えてくれた。

ソファーには光輝、花蓮、悠太の姿もある。

大河の手が離れたので
「部屋に荷物を置いてくるね。あ、花蓮、悠太、婚約おめでとう」

憮然としていた私は、2人にニコッと笑って言うと階段を上がって自分の部屋に行く。

でも…ドアを開けて私は固まった…。

何?コレ?なんで?

私は転びそうな勢いで、上がったばかりの階段をかけ降りた。

「お母さん!どうして…私の部屋が空っぽなの?」

私が叫ぶように訊いた時、6人は優雅に紅茶を飲んでいた…。

「ああ、午前中に引越し屋さんが来てくれて送っておいたの。楽々パックって本当に楽ね。あっという間に終わっちゃった」

「送ったって…何?どこに?」

私の質問には誰も答えず、みんなシレッとした顔で紅茶を飲んでいる。

なんだろう!この半端ない疎外感!

そんな私に構う事なく
「おじさん、例のアレ、準備してくれた?」
大河が父に訊く。

「おう」
父が軽い感じで返事をし、サイドボードの引き出しから何やら紙を一枚取り出す。

「お前の親父と今日昼メシを食って、その時に一緒に書いておいたよ」

いや、だから私の部屋は…。

「ありがとう。じゃ、俺も書くか…」
大河は母からペンを借りると、その紙に何かサラサラと書き込み始めた。

「それより…私の部屋…」

誰も私の言葉に耳も貸さず、みんな大河の手元に注目している。

ああ、やっぱりこの家の中での私の存在って軽い…軽すぎる!
改めてそう思う。

部屋はなぜか空っぽだし、もう家出しよう。
恵利ちゃんちに泊めてもらおう

溜息をつきスマホを取り出し恵利ちゃんの番号をコールする。

「は〜い、桃センパイ。どうしました?」

恵利ちゃんが電話に出るのと同時に

「あとは桃だ。間違えないように書けよ」
と大河に紙を渡されたので、条件反射で受け取ってしまった。

「おーい!桃センパイ?」

「こ…ん…」

「…桃センパイ…?」

「こ…ん…」

「…キツネなの…?」
恵利ちゃんが呟くのが聞こえたが…。

私の手から滑り落ちそうになったスマホを光輝がキャッチし

「あー恵利ちゃん、昨夜はどうも〜。ごめんな、桃いま取り込み中で…。また後でかけ直させるよ」
と切った。

「こ…ん…」

私は未だキツネだった。
だって!だって!


『婚姻届』って……。


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