エリート外科医といいなり婚前同居
「……振り向かないで。顔見たら、襲いたくなる」

礼央さんに対する自分の想いに気がついてから、私の行動は少し変わった。

「おかえりなさい、礼央さん。お疲れ様です」

「ただいま、千波」

玄関での恒例になっている、お帰りのハグ。

今までは、礼央さんにぎゅっと抱き着かれてあわあわと照れるだけだったのが、自分からも広い背中に腕を回して積極的に彼の温もりを感じたり。

「今日は何作ってるの?」

「寒いから、シチューですよ。礼央さんが風邪ひかないように、根菜たっぷりで」

「ありがとう。いいにおい」

温かい湯気の立つキッチンで後ろから抱き着いてくる彼を「料理ができません!」と追い払おうとすることも、もうやめた。

愛しい体の重みを受け止めて彼の方を振り返ると、礼央さんはいつも幸せそうに目を細めて、私の頬や唇、ときどき耳に軽くキスをする。

そのたびに私がドキドキして、同時に切なくなって泣きそうになること、彼は知らないんだろうな……。

でも、知られなくていい。知られたら、今のような触れ合いすらできなくなってしまう。

愛のない戯れで幸せを感じるなんて、ばかみたいかもしれないけど……礼央さんのようなハイスペックな男性が、平凡な私と恋愛するなんてあり得ないことだから。

この夢のような時間を少しも無駄にしたくはないって思うのも、おかしくないでしょ……?


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