エリート外科医といいなり婚前同居

「ど、どうでしょう……?」

感想を求めるのが照れくさくて、上目づかいでおそるおそる彼を見つめる。

礼央さんは無言で長いことじっと私を観察したかと思うと、つかつかと歩み寄ってきて試着室の扉に手をかけた。

そして、店内から私たちの姿が見えないように半分扉を閉めると、その一瞬で短いキスを交わし、そのまま至近距離で呟いた。

「綺麗だよ。誰にも見せたくないくらい」

ど、どうしよう……こんな場所でキスするなんて恥ずかしすぎるけど、ドレス姿を褒められただけでこんなにうれしい。

やっぱり私、礼央さんのこと……好き、みたい。

私は頬を熱くしながら、礼央さんを見つめてはにかんだ。

「これにします。礼央さんが、気に入ってくれたから」

今の私には、勇気を振り絞ってもこれくらいのことした伝えられないけど。

私の中に芽生えたこの感情は、きっと……初めての恋。

自覚してしまうと、所詮は〝偽物〟であることがとても切なくて、苦しいけれど。

「パーティーの日は、これを着て精一杯、婚約者らしく振舞いますね」

力強く宣言すると、礼央さんもそれに応えるように、ゆっくり頷いてくれた。

「うん、よろしく。俺の可愛い婚約者さん」

その日までのあとわずかな数日間は……。

こうしてそばにいられる喜びに。まるで本物の婚約者のように扱ってもらえる甘い幸せに。

難しいことは何も考えず、ただ溺れていたい――。



< 120 / 233 >

この作品をシェア

pagetop