My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
「ラグ!? 待ってよ! どうしたの? 急に」
私は心配そうなライゼちゃんを何度も振り返りつつも訊く。
先ほどの彼の横顔を見るに、どうやらものすごく怒っているよう。
私だって、カルダの名前が出たときには怒りで全身に鳥肌が立ったほどだ。でもラグは、ついさっきまでだるそうに私達の後をただついて来ているだけだった。
火をつけたことが、そんなに許せなかったのだろうか……?
「ついて来るな!」
こちらを振り向きもせずに怒鳴られ、私は驚く。
「オレ一人で奴に会いに行く」
「な、なんで!? 私が行かなくちゃ意味が無いんだよ! 私も行く!」
雨音にかき消されないよう大きな声で言うと、彼はイラついたように足を止めた。
振り向いた彼にものすっごく睨まれたが、私も負けじと睨み返す。
だてにこの世界に来てからずっと一緒にいるわけじゃない。私だって少しは強くなっているし、彼に対して耐性が付いてきているのだ。……全く怖くないわけじゃないけれど。
と、セリーンがそんな私の横に立ってラグに言った。
「カノンは私が守る。心配するな」
「セリーン!」
すると彼は大きな舌打ちを一つしてまた前に向き直ってしまった。
「勝手にしやがれ!」
「うん、する!」
私は強く言う。
と、その時激しい雨音に紛れライゼちゃんの声が聞こえてきた。
「カノンさん!」
私は手を振りながら大きな声で叫ぶ。
「ライゼちゃん! こっちは大丈夫だから、ライゼちゃんは早く村の人達を安心させてあげて!!」
「お気をつけて!」
私はまた歩き出してしまったラグを慌てて追いかけながらも手を振って答えた。
――いよいよ、カルダと再びの対面だ。
私は気を引き締めて、ぬかるんだ地面をばしゃばしゃ音を立てながら早足で進んでいった。