My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1

 宿屋を出ると昨夜は暗くてわからなかった町の全貌が良く見渡せた。
 今私達が歩いている道を中心にこの町は広がっているようだ。と言ってもこの道自体そんなに広いわけでもなく、やはりあのお城があった街に比べると随分小さな町だとわかった。

 殆どが平屋のコテージのような家で、昨夜泊まった宿屋のような二階建ては他に見当たらない。
 洗濯ものを小脇に抱えながら井戸端会議に華を咲かせているおばさん達を横目に、ふと昔家族で行ったキャンプ場を思い出す。

(みんな、私がいなくなってきっと心配してるんだろうな……)

 私がこちらの世界に来てからもう2日が経ってしまった。
 今まで無断で外泊などしたことない私を家族はとても心配しているだろう。

 ちくりと胸が痛む。
 やっぱり早く家族の元に……元の世界に戻りたい。
 改めて強く思う。

(そのためにも、早くエルネストさんの所に行かなくちゃ!)

 そんなことを考えているうちに、昨日の武器屋さんが見えてきた。
 昨夜見た看板を間近に見て私はゴクリと喉を鳴らす。

(強くて、でもあんまり外見強そうじゃない人がいますように!)

 なんだか矛盾していることを祈りつつ扉に手を掛けるラグの背中を見つめる。――と、その背中が突然目の前から消えた。
 頭に疑問符が浮かぶ前に腕を思い切り引かれる。

(え?)

 途端バンっと大きな音がして人が飛んできた。
 今まで自分が立っていた場所を通過して尻餅をついたその人は、昨夜もいたような気がする体の大きな男だった。

 あの重そうな体の下敷きになっていたかと思うとぞっとする。
 ラグが私の腕から手を離すのに気づいて「ありがとう」と小さくお礼を言う。
 彼はそれには答えずその飛んできた男をただ冷たく見下ろしていた。

「いっててて……、こんのアマぁ! いきなり何しやがる!!」

 顔を真っ赤にして立ち上がった男は扉の向こうに怒声を飛ばした。
 そしてそこからゆっくりと出てきた人物を見て私は驚く。

(昨日の女傭兵さん!)
< 60 / 280 >

この作品をシェア

pagetop