私の中におっさん(魔王)がいる。
プロローグ~舞い降りた日~
 ――魔王。
 この世界には魔王と呼ばれるものが存在する。
 この世界のどこかに封印されていると云われている魔王は、実体がないのだそうだ。

 魔王には意思が無く、また生命(いのち)すらない。
 魔王の正体は、莫大な力、エネルギーの塊、そう伝えられている。

 魔王が復活したのは今から六二五年前。
 あまたの犠牲を出して、魔王は復活した。

 魔王の復活には、力を持つ者が数人で輪を組み、祝詞を唱え、生贄を授ければ良いとされ、贄が魔王の器に相応しければ、魔王はその者の中に宿る。
 しかし、相応しくなければ、魔王に吸収され消える。

 魔王に相応しい器は、中々現われるものではない。
 故に、六二五年前の魔王復活の折、贄の犠牲となった者は五千とも、一万とも伝えられている。

 魔王となった者はその力を使って、世界を滅ぼしたとも、世界を救ったとも云われている。


 ――― ――― ―――


「――本気でこんな昔話を信じる気か?」

 太陽が西に傾き、その色をオレンジへと変える頃、冷たい瞳をした男は薄闇を受け入れようとする部屋の中にいた。

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