ただ愛されたいだけなのに
ただ愛されたいだけなのに

1.

   遠距離恋愛の必需品

 斎藤夢、十九歳と四ヶ月のフリーター。遠距離恋愛の彼氏持ち。

「斎藤さーん⁉︎ ここまだ汚れてるわよ!」
 あーもう……ベテラン先輩の四十二歳の山端さんなんて、大大大嫌い。いつもいつもケチ付けて、頬骨の上の大きな黒子を隠そうともしない。

 定時の時間が過ぎても、山端さんの鋭い視線のせいで店内の掃除をさせられた。家に着いたのは午後十時を回っていた。

 アパートの二○一号室がわたしの部屋だ。先月、大家さんに内緒で台所の壁紙を赤と黒のギンガムチェックにした。それを正紀に伝えると、「さすが夢だな」って笑ってくれた。

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