私の中におっさん(魔王)がいる。~風間の章~
第四章・旅は道ずれ世は情け?
 身体がだるい。
 あれから一時間くらい歩いたけど、風景はまったく変わらない。整備されていない苔むした小道、それを囲う深い森。メビウスの輪を延々と歩いてる気分。
 それだけでも憂鬱なのに、なんだかすごく身体が重い。

 熱っぽいようなだるさ。
(まだ疲れてんのかなぁ……)

 私は斜め前をひた歩く風間さんを見上げた。
 迷惑かけないようにしなきゃ。こんなの、歩いてれば治るって。昨日だってなんとかなったし。

 そう気合を入れたとき、前方に人影が見えた。
 一気にテンションが上がる。もちろん、誰かなんて知らないけどこんな道で人に逢えるなんて、嬉しい。なんだか、疲れが吹き飛んだような気がした。
 人影は、休憩しているんだと近づくに連れて分かった。若い男女だ。

「道、聞きましょう」

 私が風間さんに声をかけると、風間さんは首だけで振り返って、そうですねと頷いた。

「こんにちは」

 私が声をかけて、風間さんと一緒に男女に近づく。男女は共に不思議そうな顔をしたけど、女の人が、「こんにちは」と、挨拶を返してくれた。にこりと笑まれた頬に笑窪ができる。

(可愛い)

 ちょっと惚れ惚れしてしまうくらい、笑顔がステキな女性だ。男性の方は、短髪のこげ茶色の髪に、細い目。いわゆる糸目。口元に笑みはないけど、目のせいか笑んでいるように見える。
 男性は軽く会釈を返してくれた。

「すみません。道をお聞きしたいのですが」

 風間さんが言って、地図を差し出した。男性が地図を覗き込む。

「この街道へはどうやったら抜けられますか?」
「際弦に行くの?」

 男性が訊いて、風間さんは頷いた。

「私達も行くんだよ!」

 女性が嬉しそうに言って、弾けるように笑う。
 陽気な人だなぁ。
 こういう人、好きだな。

「良かったら一緒に行かない? 案内してあげるよ」
「え、でも――」

 ちらりと風間さんを見る。(……急いでるんですよね?)窺っていると、風間さんは意外な事を口にした。

「良いですね。ご一緒いたしましょう」

(え? 良いの!? 急いでるんじゃないの?)

 もしかして、私の早とちり? 風間さんはただ単に足が速いだけ? ――っていうか……こういう女性が好みなんじゃ……。

 そりゃ、彼女は私よりお胸がありそうですし? スタイルも良さそうですし? 弾けるような笑顔がキュートですけど?
 うう……負ける要素なんて、負ける要素なんて……ありありですけどぉおぉ!?

「私は貞衣(てい)、こっちは夫の晴(はる)。よろしくね」

 ……夫。
 そっか、そっか、旦那さんなんだぁ!

「はい! よろしくお願いします!」

 私は意気込みながら、差し出された手を握った。
 急に元気になった私に戸惑ったのか、貞衣さんはぎこちなく笑った。
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