私の中におっさん(魔王)がいる。~風間の章~
第五章・涙
 薄い光に目が覚めた。
 頭がすっきりしてる。
 隣を見ると、風間さんが寝ずらそうに端っこで寝ていた。体を起こすと、私が中央で寝てるからだと判った。

(今、何時だろう?)

 ぼんやりと思って、枕元に置いてあるウロガンドを拾う。時刻は、獅だから、午前四時。日が昇るまであと一時間ある。

 私はまた、もぞもぞと毛布にもぐった。すると、風間さんが寝返りを打った。それと同時に、瞳がゆっくりと開かれる。

「……おはようございます」

 寝ぼけ眼で風間さんが言って、微笑む。
 距離が近い。
 ほんの少しだけ手を伸ばせば、風間さんに触れる。そんな距離。心臓が掴まれたように苦しかった。

「おはようございます」

 小さく返して、瞳を伏せた。
 ドキドキして、風間さんを見ていられない。

「――んっ」

 風間さんは軽く伸びをして体を起こした。

「調子はどうですか?」
「あ、はい。なんかもうすっかり大丈夫そうです」

 頭の痛さもないし、だるさも嘘のように消えてしまっている。筋肉痛はまだ少しだけあるけど、それだってほんの僅かなものだ。

 私の体力半端ない。
 やっぱ、ちょっとづつ慣れていくもんなんだな。おかげで風間さんに迷惑をかけずに済みそう。
 私は起き上がって、思い切り伸びをした。
 身体の力を抜いて、目を覚ます。

「昨日はすいませんでした」

 ぺこりと頭を下げると、良いんですよ、と返事が返ってきた。

「あの、貞衣さん達は……?」
「あの後、行って断ってきました。二人で食事をすると言ってましたよ。貴女の心配をしていました」
「そうでしたか……ありがとうございます」
「いいえ」

 風間さんが微笑む。
 最近ちょっと風間さんの笑顔の種類がわかってきたつもりなので、ちょっと分析してみる。今の微笑みは、愛想笑いの部類。な、はず。
 
「もう少ししたら出ましょう。朝食は途中で摂るということでよろしいですか?」
「あ、はい」

 今日も朝から豚竜の干し肉と糒かなぁ……。
 昨日の晩御飯、食べられなかったのが悔やまれる。きっと、美味しい永国料理だったんだろうなぁ。
 私はそっと、残念な息をつきつつ仕度を始めた。

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