密偵をクビになったので元主のため料理人を目指します!
 主様は諦めたように言う。

「わかるだろ。もう俺には護衛も密偵も必要ないんだ」

 王子ではなくなった自分にはその価値がないと言っている。
 そんなことはありませんと、否定出来たのならどれほど良かっただろう。少なくとも、心の中では張り裂けそうなほど繰り返していた。

「何故です、ルイス様!」

 納得出来ていないのはジオンも同じだった。

「ただ一言、一言命じてさえ下されば良かったのです。奴を始末しろと! 貴方さえ命じて下されば自分は……いえ。今からでも遅くはありません。今すぐにでもあの憎き第一王子を抹殺してみせましょう!」

「ジオン!? なんてことを!」

 私は信じられない思いでジオンを見つめていた。
 国を揺るがす発言だ。第一王子の耳にでも入れば命を奪われても文句は言えない。それなのにジオンは一切の躊躇を感じさせず、堂々と言い切った。わずかな迷いさえ見せないジオンには、行動に移す意思があることを感じさせる力強さがある。

 なんてこと!

 私は己を恥じた。
 ジオンは初めて出会った頃からいつも私より高みにいる。身長だって、主様からの信頼だって……
 今回もまた、気付かされてしまった。

 いくらショックだからといって寝込んでいては密偵の名が廃る!

「その通りです主様! どうぞ私にもお命じ下さい。セオドア殿下の弱みを握れと! もしもなければでっちあげます。いくらでも! そもそも今回のことはセオドア殿下が仕組まれたのではありませんか!」

 ジオンに出遅れるなど失態だ。私は負けじと力強く訴えていた。
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