real face

歓送迎会

今日は、教事1課の歓送迎会。

毎年この時期はこういう宴会があるけど、先月から引き継ぎが行われているから、大概3月のうちに終わってるのが一般的。
4月1日にあるのは珍しい。

はっきり言って、今回の送別会は参加したくない…。具合が悪くなったってことにして、逃れられないかな?

「おい、ま……じゃなかった、蘭さん!ちょっと来て」

げ、呼ばれた。
木原課長の後任で移動してきた、現・教事1課長。

『宮本一弥(みやもと・いちや)』

「なんでしょうか、宮本課長」

「今日の歓送迎会だけど、俺と佐伯は開始時間に間に合わないかもしれないから。席を2つ確保しておいてくれるか?」

「あ、それなら別の方に頼んでください。私、気分が悪いので欠席させてもらおうかと……」

「まひろ、大人なんだからこういう席にはちゃんと出席しろよ」

他の課員には聞こえないような小さな声で、しかしハッキリと言った課長。

「課長、ここ会社ですよ。上司と部下なんですから、苗字で」

「誰にも聞こえないように配慮してるだろ。それともそんなに苗字で呼ばれたいのか、蘭さん?」

うっ……。
そうだった、この男知ってるんだった。
私が自分の苗字を嫌っていること。

「イチにぃ……。気分が悪いのでって言ったの聞いてなかった?」

「聞かなかったことにしてやるから。大人なら大事な席を気分でキャンセルするような常識はずれはやめておけ。課長命令だから、席頼んだぞ。以上、戻ってよし」

失敗した。
"気分"じゃなく"体調"っていうべきだった。
まぁ、どっちにしても見抜かれたに決まっている。

宮本課長と私は、親類関係にある。

私にとっては木原課長が異動で居なくなることが最重要項目だったため、新しく着任した課長が誰になるかは全く興味がなかったのだった。

あーあ、イチにぃが上司なんて。
なんだか面倒くさいことになりそうで、先が思いやられる。
送別会、いや、歓送迎会はパスできそうにないし。
なんとか今日を乗りきるしかない。
自分のデスクに戻り、PCに向かいながら溜め息を溢した。

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