real face
歓送迎会の会場は、会社近くの洋風居酒屋。

「はい、これ席次表だから。蘭さんはこのネームプレートを各自の席に見えやすいように置いてきてね」

今日の幹事をしている先輩から、名前が書いてあるカードを渡された。

「え!席決まってるんですか!!じゃあ、あの新入り2人の席を取らなくていいんですね。よかった」

「あ、宮本課長と佐伯主任の席はね、蘭さんと同じテーブルだから。来られたら案内よろしく!」

「え、別のテーブルで良かったんですが……」

「そう言われても、課長からの希望だったから。これからお世話になるんだから気に入られるチャンスじゃないの。しっかりお酌してあげてよね~」

なによ!私に席を取るように指示しておいて!!

「蘭さん!課長たち来たわよ。ほら案内案内」

今日から正式に新部署に着任になった、木原課長と美里先輩も席についたようだ。
席が離れていてよかった。
しかし、離れているからこそ、あちらのテーブルの様子が気になる。
話題の中心はやはり、木原課長と美里先輩らしい。一際大きな歓声が上がる。

「まさか課長と藤本さんがデキてたなんて!」

「結婚のご予定は?」

遠慮のない芸能リポーターたちから囲まれているようで、お気の毒ね。
私には関係ないけど。
そう、私はただの傍観者でしかないの。
そのはずだった。

「俺、てっきり木原課長は、蘭さんとデキてるんだとばっかり思ってた!!」

空気を読めないある男性社員の一言により、その場の空気が凍りつく。
みんなの視線が一斉に私に向けられたのを肌で感じた。
私がいるテーブルでは、宮本課長を中心に話が続いていたものの、さっきの発言の威力に圧されたのか、明らかにトーンダウンしていた。

「なんか言われてるけど、実際どうなの?蘭さん」
隣の宮本課長から、話の途切れた隙に小声で聞かれた。
「私は、部下として可愛がってもらっただけです。それ以上でも以下でもありません……」

その通りだ。
きっと私のこと好きだなんて、勝手に勘違いしていただけ。
食事に誘ってくれたり、会社内で頭を撫でられたり、肩に手を置かれたり、耳元で甘い言葉を囁かれたり。
彼からのアプローチだと思い込んでしまっただけ。


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