【B】箱庭の金糸雀 ~拗らせ御曹司の甘いぬくもり~

5.蝕んでゆく記憶 -如月-

突然出来た婚約者。

アタシの出身校の生徒たちなら、知らない人が居ない存在。
三杉光輝のマンションで始まった突然の同居生活。

戸惑い続けるアタシの傍、彼はアタシを約束通り束縛することはない。


広すぎるベット。
二人で眠るのに十分な広さのキングサイズのベッドが寝室には一つ。


最初の頃は二人で一緒に眠るなんて抵抗がありすぎて、
アタシはリビングのソファーで眠ってた。

だけど朝になれば、アタシの体は大きなベッドに移動していて、
隣には背中合わせに彼が眠っていた。

推測するに眠り落ちたアタシを彼がベッドへと起こさないように気を付けながら毎夜運んでいたと言うこと。

そんな日が四日ほど続くとアタシも一応学習するわけで、
五日目の夜からは、自分の足でそのベッドに向かって先に眠るようになった。


夜は先にベッドに入って眠りにつき、真夜中に一度目が覚めて起きて、用意された自分の部屋の片隅、
窓から月夜を見上げながらボーっと時間を過ごす。


そしてそんな時間を続けた後、彼に気遣われるのが嫌で何事もなかったように再びベッドへと潜って、
朝まで眠っているフリを続ける。


毎朝、5時頃になると彼は目を覚ましてベットからアタシを気遣うようにして這い出す。
彼が居なくなった寝室でアタシは広いベッド狸寝入りをしたまま時間をて過ごし続ける。

6時半頃になると、彼が寝室へと入ってきてアタシに「如月さん、そろそろ朝食にしませんか?」っと優しく声をかけてくる。
彼の声に反応して、今起きましたという素振りで、ベッドから体を起こすと「良く眠れましたか?」なんて話しかけてくる。


眠れてなくても眠れたふりをして頷くと早々に寝室から自分の部屋へと移動して、
クローゼットルームに入ると着替えを取り出す。

クローゼットルームにはアタシ用に準備されたらしいドレスを始めとする洋服たちが、
綺麗に整頓されて片付けられていた。


どれもアタシ好みのデザインの服たちだけど、普段着にするには高すぎる気がする。
家で部屋着にするのなんてTシャツとGパンくらいで十分なのに……。

そんなことを考えながら、シンプルなワンピースを取り出して身に着けると洗面所で顔を洗ってから、
ダイニングの方へと向かった。

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