【B】箱庭の金糸雀 ~拗らせ御曹司の甘いぬくもり~


テーブルの上には、すでに彼が用意したと推測される朝御飯が並べられて、
いつのように紅茶を用意しながら、テーブルへとキッチンから移動してきた。

彼にエスコートされるがままに椅子に着席すると、
紅茶の香りがふわっと広がっていく。


「如月さん、今日は出張があって帰りが遅くなると思います。

 晩御飯も食べて帰ってくると思うので申し訳ありませんが、
 外でお友達と外食なんてどうですか?」


朝食の席で、何時ものように自身のスケジュールの説明をし終わると、
アタシの晩御飯についても心配しているみたいだった。


「友達と食事……」


友達との食事はランチにして、夜は久しぶりに、よしさんとはつさんの所に顔を出さなきゃ。
ずっと無断欠勤なんて申し訳なくて。


「夜は出掛けたいところがあるので、晩御飯はそちらで食べます」

「わかりました。
 気を付けて出掛けてきてくださいね」


そんな会話をしながら朝御飯を食べ終わると、洗い物くらいはとキッチンにたって食器を片付ける。

そうこうしているうちに、彼のシークレットサービスと紹介された人が自宅のチャイムを鳴らして、
彼は慌てて出勤していった。


「お嬢様、本日のご予定はいかがなさいますか?」

三橋がいつものように気遣う。

「光輝さまの許可も頂けたので、今日はアタシも外出します」

「かしこまりました。お車の手配はいかがいたしましょうか?」

「歩いていける距離だから車はいらないわ。
 アタシも昼も夜も食べてくるから、三橋も今日はゆっくり過ごしてね」

そう言い残すと自室に向かってクローゼットから鞄を取り出して、
財布と二台のスマホを鞄の中に入れる。


「三橋、行ってきます」

「はい、行ってらっしゃいませ。お嬢様」

三橋に見送られてアタシはマンションを後にした。
行く当てのないアタシはとりあえず、ずっと生活していたマンションへと自然と足を向ける。

こんなつもりじゃなかったのに実家に法事に帰って、
そのままずっと家に帰れぬまま、今日まで過ごしてた。

鞄の中から鍵を取り出して、マンションのドアの前に立つ。
鍵をあけてドアを引くと、玄関前の床には数日分の手紙が散乱してる。

その中の一通には、美織からの葉書が含まれてた。

南国の風景写真の端にメッセージが記されていた。




如月へ


如月には迷惑ばかりかけてしまって、ごめん。
私は今、龍之介のおばあさまのお家の近くで生活しています。

逃げ回ってばかりじゃ行けないって思ってるけれど、
今は時期を待ちたいと思っています。

また連絡します

美織



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