愛しの Silver Fox 様
山の中の祠
多々羅ヶ峰神社には、古くから代々語り継がれる言い伝えがある。
文献として書き残すことは許されず、それはずっと代々語り継がれ続けてきて、現代の今となってはまるでおとぎ話か昔話のようで、誰しも半信半疑で迷信だと思っていた。

『数百年に一度、身体にお狐様の足跡のような痣がある娘が生まれる。それはその娘が十八の誕生日を迎える満月の夜に、お狐様に嫁ぐ証だ』と。




✳✳✳

「オギャー、オギャー」

女の子が生まれた瞬間、両親も祖父母も皆が生まれたばかりの赤ん坊を見つめ息を飲んだ。
色白な可愛らしい赤子の胸元には、くっきりとその痣が綺麗な肌に刻まれていたのだ。

『お狐様の大切な花嫁』

生まれた瞬間から神様のもとに嫁ぐことが決められた彼女は、神に選ばれし特別な人間であることがどんなに誇らしいことなのかを幼い頃から教え込まれた。そしていずれ訪れる家族との別れを言い聞かされながら、家族から村人から『お狐様の花嫁』として皆に愛され、大事に大事に育てられた。

それから二年後、再び生まれた赤ん坊も女の子だった。神社の跡継ぎが生まれなかったことに肩を落とした両親は、すぐに隣町の神社の次男を自分の神社の跡継ぎとして娘の許嫁にとり決めた。両親も村人も特別に彼女には目をかけることなく、彼女は森に住む動物に愛され祖母によって育てられた。



< 1 / 20 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop