My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 2

3.呼ぶ声


「…………」

 遠く、何か聞こえた気がした。

「……華音」

 それは私の名前。

 誰かが、私の名を呼んでいる。

 目を開けて声の主を探そうとしたけれど、辺りは真っ暗で何も見えない。
 それとも、私はまだ目を瞑っているのだろうか?

「華音」
「華音」

 次第に増えて行く声。
 それは徐々に大きく、切羽詰まったものへ変わっていく。

「華音!」

 そして気付く。
 この声は、母のものだ。

「華音! どこなの、どこに行ってしまったの、華音!!」

 泣き叫ぶその声に、胸が痛いくらいに締め付けられる。

(――お母さん、お母さん!!)

 その呼び声に答えるように叫ぶ。
 でもやはり何も見えず、ただずっと母の叫び声だけが頭に響く。

「華音!!」

 次に聞こえたのは父の声。
 聞いたことのない、悲痛なその声に私はまたありったけの声で叫ぶ。

(お父さん、私はここにいるよ! お父さん!!)

 父と母の声が重なって、でも姿が見えなくて、どうすることもできなくて、私は絶望する。

 急に、冷たい風が全身を襲った。

 寒くてこれ以上動けなくてその場に蹲ると、今度は友達の声が聞こえてきた。
 皆泣いている。泣きながら私を呼んでいる。
 もう一度顔を上げて私は叫ぶ。

(私はここだよ!)

「華音!」

 ひと際大きく聞こえたその声はとても懐かしいもの。私はその名を呼ぶ。

(響ちゃん!)

 叫ぶと同時、闇を割って一筋の光が差し込んだ。
 こちらに差しのべられる大きな手。
 私はそれを掴もうと必死に手を伸ばし――。



「うわっ」

 確かな感触と、驚いたような声に私は重い瞼を開けた。
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