リリカルな恋人たち
A.運命とシールと焼きそば
A.


披露宴が行われている会場からは、カラオケの歌声がくぐもって聞こえた。

新郎の同僚が昔流行った恋愛ソングを熱唱している。
音程が外れてるけど、酔ってるんだか元々音痴なんだかわからない。

それは中学生のときによく聴いてた曲で、勝手に耳が、ほろ苦い記憶を掘り出してくるから。

つまらない。


「つまんないね。」


ハモってしまった。

お手洗いを理由に離席して、ロビーのソファに座ったままぼーっとしていたわたしは、頭上から降ってきたはっきりとした声の主を緩慢に見上げる。


「……そうですネ」


答えると、ふっと鼻で笑った相手は躊躇いなくわたしの隣に座った。
背もたれに深く背中を預け、天井を見上げたりしている。

ビシッとスーツを着ているので、この男も今日の披露宴に招待された客のひとりなのだろう。
新郎側の友人か、親戚だろうか。


「あの……ついてますよ」


ん? とわたしを見た相手に、わたしは自分の太ももの脇あたりを指で指し示す。
目で、ほら、そっちに……それそれ、と合図する。

「わ、ほんとだ」と起伏なく言った相手は、特に驚くとか恥ずかしがるとかなく平然と、太ももについていた水色のシールを確認した。
コンビニのシールだった。


「僕、こういうとこで豪華なコース料理とか食べたあと、必ずジャンキーなものが食べたくなるんですよね」
「はあ……」
「それでさっき向かいのコンビニ行ってカップラーメン買っといたんです」
「準備いいですね」
「そんで、店員さんにシールでいいですって言ったから、たぶん取れたんですねコレ」
「エコ大事ですもんね」
「で、そのカップラーメンは上に部屋とってるんで、会場来る前に置いてきたんですけど」
「へえ、遠くから来てるんですか?」
「いえ」
「……そうですか」
「一緒に食べます?」


口を閉じ、瞬きをする。
どうやらわたしは太ももコンビニシール男に口説かれたらしい。
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