リリカルな恋人たち
わたしの一通りの逡巡と待つための、お互いにただ見つめ合う時間がややあって、ゆっくりと立ち上がった。

コンビニで数百円のカップラーメンに釣られてのこのこついて行ったりして、節操のない女だな、軽すぎるなこいつ、とか思われたかもしれない。

でも、別によかった。
なんか今更、貞操がどうとか言うような歳じゃないし、この初対面の男に安売りしてると評価されようと、どうってことないと思った。

けっこう全てがどうでもよかった。
ただ、歌が聞こえないところに行きたかった。

七階の部屋までついて、カードキーで解錠する。
わりと広くていい部屋だ。

遠くから来てるわけじゃないのに部屋をとってるなんて、最初からこうして適当に声かけて、ついてきた子を連れ込む気でいたのかなって思ったらちょっと引くというか、滑稽な感じもして、いい部屋の格も下がるんだけど。

まあいい。
どうでも。

打算的でも魔がさしたでも、どちらであろうとわたしには関係ない。

テーブルにポツンと置いてあったのは、ラーメンじゃなくて焼きそばだった。
「それ、焼きそばですね」と言ったら、男は「あ、焼きそばだった」と言った。いや、買うとき気づけ。

備え付けのケトルでお湯を沸かして、口実じゃなく、ほんとうに食べるんだ、と思った。

わたしはテレビの前の椅子に座って、何気なく番組表を手に取った。


「見てもいい?」
「うん」


男は沸騰したお湯を、慎重に内側の線まで注ぐ。


「ペイチャンネル見た?」
「ちょ……!」


俊敏にケトルを元の位置に戻した男は、ばっとわたしから番組表を奪う。


「すごい焦ってる」
「からかわないの」


取り返そうと手を伸ばしたら、パシッと手首を掴まれた。
見つめたままでいたら真顔になって、そのまま近づいてきた。
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