異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
近所に住まう別の店――小物を売っていたり、裁縫道具の店だったり、野菜を売るいわば八百屋だったりのおばさんたちに艶と漆黒さを驚かれる髪は、三年の間に数回切っている。先日も、背中を覆うほどになったそれを、母親のサユリが中央あたりで横一文字に切り揃えてくれる。

鋏を操りながら、サユリは楽しげに言っていた。

『この世界の若い女性たちは長い髪が当たり前のようね。高い身分のご令嬢方は特にそうみたいよ』

貴族のご令嬢は、王城へ行ったり他家の正式な集まりに出たりするために、結わなくてはいけないからだ。

彼女たちはこういう表通りから外れた場所に来ることはない。たまに侍女らしき人が和菓子を買いにくる。高価な部類に入る生菓子は持ち帰り希望で、彼女たちで分けるためにみたらしを購入すると聞いた。『こちらの綺麗なのはお嬢様のご希望なのよ』ということらしい。
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