作業場と店は繋がっていてガラスの窓で仕切られていた。

売り子をするために店にいた母親のさゆりが、奥へ入ってきて笑う。

「恵ったら、ほっぺに付いているわよー。おやつの時間だけど、食べ過ぎはダメ。宿題はどうしたの」

「う……あとから」

店で客に対応するさゆりは、髪は頭のうしろで緩く結い、濃い地の絣の着物にエプロンをしている。『お母さん美人ねー』と商店街の人たちに言われるような透き通った綺麗さがあったが、どちらかというと天然系で、緩い物言いでたまに外す。明るくて優しくて、恵の自慢の母親だ。

さゆりはエプロンのポケットから布巾を出して恵の頬を拭ってくれた。哲二がすかさず言う。

「先に宿題をやってこい。あとで練りきりを一つ作らせてやるから」

 練りきりは白あんから成形する生菓子だ。白あんはいんげん豆から作る。

哲二が季節にそった材料を加えながら一つ一つ丁寧に作った。完成品は繊細で味のバランスも行き届いており、まさに芸術品だ。

「はーい」

褒美があるなら宿題もなんとか一人でこなした。さゆりが笑って店先へ戻り、哲二も、強情そうに口を“へ”の字型に曲げて菓子作りに集中してゆく。