たとえ君が・・・
第六章~たとえ君が過去を抜け出せなくても~
「多香子っ!?」
渉は日勤が長引いてやっと日付が変わる直前に帰宅した時、自分の部屋の前に体を小さく丸めて座り込む多香子を見つけた。顔が見えなくてもすぐにその姿が多香子だと渉にはわかる。

午後から降り出した雪が道路につもりはじめている。渉のアパートも玄関の前の通路にも雪が積もり始めていて気温はマイナス。

渉は多香子の姿を見つけるとすぐに駆け寄った。

「多香子!?」
一体、彼女はいつからここにいたのだろう。

地面に膝をつき渉は多香子の体を起こした。
氷のように全身が冷え切っている。マイナスの気温の中、体が雪で濡れていてさらに体温を奪っていることがわかる。多香子は意識がもうろうとしていて、目がうつろな状態だった。顔色は雪のように真っ白だった。

「何してんだよっ!」
渉は自分の部屋のカギを開けると多香子の体を抱き上げて自分の部屋へ運んだ。
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