KANATA~answers of your selection~
第3章
「あのさ、辻村」


「私じゃなくて別の人に聞いて下さい」


「まだ怒ってる?」


「知りません」



辻村はずっとこの調子だ。


電車での質問に怒ってしまったのか、あれ以降口をきいてもらえずに2週間が経った。



「今日はオレと辻村しかいないんだからさ、少しくらい話聞いてくれよ」


「真希は日直が終わったらくるのでそれまで待ってて下さい」


「でも、一応辻村の意見も聞きたいなと...」



オレは子供のご機嫌取りをしているのか。


自分の行動に呆れる。


泣けてくる。


何してんだ、オレは。



「辻村は夏の合宿さ、長野か福島かどっちがいい?」



黙々と宿題に取り組む辻村。


さらさらの黒髪が肩まで伸びていて、その髪を耳にかける時にいつもどきっとする。


シャープな輪郭が一段と美しく見えるのだ。


見とれてるって言えば良かったのか。


見とれてる...そう言われればそうなのかもしれない。


今言えばいいのか。


言うべきなのか。


言えば機嫌が良くなるのだろうか。



「辻村?」



パイプイスを出してきて辻村の目の前に座る。


やはり辻村は口を聞いてくれない。


ひたすら計算式を解いている。


答えのある数式はいいなと思ってしまう。


その向こう側にいる人間にかける言葉には正解がない。


いつも考えさせられる。


そして難題ばかり与えてくる。



「辻村、この前は本当にごめん。謝っても許してもらえないかもしれないけど、ちゃんと謝る。
...ごめん」



何のことで謝るのかよく分からないが、辻村を傷つけてしまったのは確かだ。


こんな顔をさせたのはオレなんだ。


オレがなんとかするしかない。



「この部屋暑いよな。喉乾くからなんか買ってくるよ」



そう言ってオレはひとまず部室を出た。


< 64 / 178 >

この作品をシェア

pagetop