私の推しはぬこ課長~恋は育成ゲームのようにうまくいきません!~
「おはよう。昨日は付き合わせて悪かった」

「いえ……。こちらこそ楽しかったです」

 愛衣さんは早口で捲し立てるなり、ほかのヤツにコーヒーを配って歩く。名残惜しくて、その姿を目で追ってしまった。

(あーあ、あともう少しだけ話がしたかった。ほかに話すことがないのがつらいな……)

「なんや、ええ感じやん」

 猿渡が振り返りながら俺を見る。糸目をバッチリ開いてまじまじと見つめられても、迷惑という感情しか沸かない。

 わざわざ振り返って見るなと注意しようとしたら、あらぬところから声がかかった。

「須藤課長ってば朝っぱらから、嫉妬に狂っていたけどな。ヒツジ、コーヒーサンキュ! 山田となんの話で盛り上がっていたんだ?」

 松本が、言わなくていいことを言いやがった。文句のひとつをお見舞いしたかったが、愛衣さんが山田と話していた内容が知りたくて、怒りをぐっと堪える。

「土曜の深夜やってるドラマのことです。一緒にコーヒーメーカーを買いに行ったときに、山田さんが推理小説が好きって聞いていたので、きっとハマると思ってドラマのことを教えたら、面白いって感想を知らせてくれて、話につい夢中になっちゃて……」

(――なるほど。愛衣さんの見ている番組か、あとでチェックしなければ!)

 パソコンをいじってるフリして、スマホにドラマのことを打ち込んだ。

「須藤課長、高藤のパソコンが終わるまでに、そっちのパソコンをチェックしたいんだけど、大丈夫か?」

「ああ、大丈夫だ。俺は副社長のところに行ってくる。猿渡はヒツジと待機。ここから出るなよ」

 松本に話しかけられたのを機に、名指ししていない猿渡に視線を合わせる。

「ええけど出るな言われたら、出たくなるよな。ちなみに、トイレにも護衛つきなん?」

「ヒツジは嫌かもしれないが、そうしてくれ。松本のパソコンに手を出された以上、なにかしてくるのはわかってるから」

 松本がパソコンのチェックをすると言ったので、犯人の目星と方法を手早く打ち込み、重い腰を上げた。

「ここの存続にも関わる。それぞれ頼んだことを遂行してくれ!」

 あえて愛衣さんを見ないようにして、経営戦略部を出た。心配そうな彼女の目に見つめられたくなかったから。
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