わんこはあなたに恋をした
 高校に入学して一ヶ月。別々の部屋がいいと毎日のようにぶちぶちと文句を垂れている二つ年上の姉とは、部屋を半分にして使っていた。二段ベッドを部屋の真ん中に置き、仕切り代わりにして、上が姉、下が私だ。姉の部屋はいつもきれいに整っていて、可愛らしいクッションや、母にねだって買ってもらったパステルカラーの布団カバーが女の子らしさを演出している。ベッドの上には、どうしてかふかふかの枕が三つも並んでいて、その理由を母に訊いたら、海外のお姫様映画に影響されてるらしい。意外とミーハーなのだ。カーテンは共同だから、部屋に取り付けた時から薄桃色のカーテンだけれど、私としては爽やかな明るい若葉色を希望している。未だ叶ってはないけれど。姉はデスクの上もきちんと整理されていて、参考書や教科書やノートが整然と並んでいた。
 一方私はといえば。特に汚くしているわけではないけれど、ベッドカバーには、「年中暑苦しくて鬱陶しい」と姉に言われている、夏の太陽とヒマワリが咲いていて。クッションなんかはなくて、直径一メートルほどの水色をした丸いラグをベッド傍に敷いていた。そこが定位置のように、ベッドを背もたれにして少女漫画を読むのが私の日課だった。おかげでデスクの上には、教科書やノート以外に少女漫画が幅をきかせている。
 勉強のできる姉は、顔立ちが綺麗系でスラリと身長も高い。きっと父に似たんだと思う。一方私は、ペット系だ。中学からぱったりと身長は止まっていて、150センチの身長がなんとか160センチにならないかと日々牛乳を飲んでいた。ただ、一向に伸びる気配はない。少しばかり色素の抜けたような茶色がかった髪の毛は首で切りそろえたボブカット。まっすぐで素直な髪の毛は、何でもすぐに信じる性格と一緒だと姉が時々バカにしたように鼻を鳴らす。それでも姉曰く、あんたの自慢はその髪の毛だけね。そう言われるくらい、友達からも綺麗だと褒められていた。特に勉強ができるわけでも、運動ができるわけでも、得意なことがあるわけでもない私は、唯一綺麗だと褒められているこの髪を、毎朝丁寧にブラッシングしていた。
 そうやって少女漫画以外には特に興味もなかった私が、梅雨を前にした五月のある日、あなたに出会い、高校になって初めての青春を経験する――――。

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