美髪のシンデレラ~眼鏡王子は狙った獲物は逃がさない~

穂積という男

あの日から12年。

瑠花はアメリカンハイスクールを卒業し、都内の国立大学、化学生物学科を経て、新卒者採用で穂積ソワンデジュヴに入社し、商品開発部研究開発課に配属され早5年が経過した。

数々の商品開発に携わってきたが、研究開発は日蔭の功労者。

華やかな営業部や宣伝広報部とは異なり、瑠花はひたすら研究に没頭し、裏方に専念してきた。

これまで表舞台に立つのは、目立つことが大好きな50代の狭間部長に任せておけば良かった。

そうすれば、最低限、瑠花はこのオッドアイを世間にさらさなくて済む。

ぬるま湯に浸かった状態に甘んじていたのが悪かったのか、この春、地味部署の代表であるこの研究部に異動してきたのは、本社のエース、穂積朔也という不運。

゛あんな目立つ人が来たら、研究部の安寧が崩れるじゃない゛

瑠花は、一人心の中で苦悩していたのだが、調合中であったため表情には出せずにいた。

社会人になった瑠花はオッドアイを隠してはいない。

それも自分の個性だと受け入れることができるようになったからだ。

だが、やはり、初対面の人と対峙するのは苦手なままだ。

一瞬でも好奇の目に晒されるのは、いい気分ではないのは確かだから。

だが、初めて会ったはずの穂積朔也は、瑠花のオッドアイには関心を示さず、つまづいた拍子に触れた瑠花の髪にえらく執着・・・いや、注目していたように見えた。

目が合った時にも、驚くわけでも戸惑うわけでもなく、ただじっと瑠花を見つめ返してきた。

゛それにしてもあの雰囲気、既視感があるのは気のせいだろうか・・・゛

しかし、思い出そうとしても何も思い出せない。

「とにかく、変な人・・・」

瑠花は、危うくこぼしそうになった手元の液体を慌てて元に戻しながら、思考から朔也を追い出そうと頭を振った。
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